日本災害復興学会2015年東京大会エクスカーション案内

~大会会場周辺でみる『関東大震災』と『帝都復興』の現場~



6 災害遺産・復興遺産の保存や"活用"の現場
6.1被災建物の部分保存
住所:文房堂神田本店 〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1丁目21-1
関東大震災では明治以降建てられてきた西洋建築の多くが倒壊・焼失した。建築家や造園技師はそれらを補修して使い続けたり、部分保存したりした。
お雇い外国人が設計した旧開拓使物産売捌所(J.コンドル)が浜町公園の四阿 として、旧遊就館(G.カッペレッティ)の正面入口部分が復興した遊就館の前庭にそれぞれ設置された(図6-1-1〜6-1-4、現在はいずれも撤去済み)。
また、日本人建築家の第一世代である辰野金吾による帝国大学工科大学本館の部材が東京帝国大学の運動場擁壁(附属施設外壁)として再生され、現在も残っている(図6-1-5〜6-1-6)。
このほか、㈱文房堂 神田本店は震火災に遭った建物 を震災後、そして戦後も使い続け、現在は改築したビルに貼付ける形でかつての外壁を保存している(図6-1-7〜6-1-8)。
これらはいずれも、ひとびとが何らかの目的のもと、震災前の建築物を部分的にせよ今日に伝えている例である。

図6-1-1旧開拓使物産売捌所 (建築雑誌43巻523号、p.828)

図6-1-2浜町公園あずまや

図6-1-3旧遊就館

図6-1-4復興後の遊就館(手前に旧遊就館の外壁)

図6-1-5東京帝国大学旧工科大学本館

図6-1-6東京大学御殿下グラウンドの擁壁

図6-1-7焼跡にたつ文房堂(矢印)

図6-1-8バラック時代の文房堂(矢印)
6.2リノベーション、転用
住所:〒101-0065 東京都千代田区西神田2丁目8-1(旧研数学館)および〒111-0056 東京都台東区小島2丁目9-10(旧下谷区小島小学校)
白山通りの沿道奥行き6間は4.2で記した甲種防火地区に指定されていた。白山通りに面した旧研数学館(予備校)は一誠堂書店同様に、甲種防火地区の規制を満足した不燃建築である。同予備校は受験生の減少を理由に予備校業から撤退し、建物は現在、飲食店に貸し出されている。
旧下谷区小島小学校も旧研数学館同様に少子化を背景として本来の用途から「台東デザイナーズビレッジ」へと転用されている。

図6-2-1旧研数学館(帝国書院の入居時) (出典:田中蔵絵はがき)

図6-2-2旧下谷区小島小学校 (出典:田中撮影)
6.3淡路小学校跡地の市街地再開発事業
住所:〒101-0063東京都千代田区神田淡路町2丁目101
(WATERRASワテラス)。そもそもは旧制開成中学校が震災時に転出した跡に淡路小学校を移転させ、公園を併置した「復興小公園」。淡路小学校の芳林小学校との統合・閉鎖に伴う再開発。
6.4城東小学校跡地や東京建物ビル
住所:〒104-0028 東京都中央区八重洲2丁目2-2(城東小学校)および〒103-8285 東京都中央区八重洲1丁目9-9(東京建物本社ビル)
復興建築は今日の容積制、とくにその緩和型運用のもとでは貴重な種地と看做されることも多い。現在、準備組合が設立され、計画が検討されている「(仮称)八重洲二丁目北地区第一種市街地再開発事業」は城東小学校と東京建物本社ビルという2棟の大規模な復興建築を計画敷地に取り込もうとしている(城東小学校は同再開発事業北街区に建つタワー建築内に入居との構想) 。遠からず、2棟の復興建築は姿を消すことになる。


図6-4-1城東小学校 (出典:田中撮影)
関連した既発表論文
1) 中央防災会議:災害教訓の継承に関する専門調査会報告書,1923 関東大震災【第3編】,平成20年3月
http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kyokun/kyoukunnokeishou/rep/1923-kantoDAISHINSAI_3/index.html
2) 田中傑(2009):関東大震災後の罹災者収容バラックと三井諸会社による活動の位置づけ,神奈川大学 非文字資料研究センター,年報非文字資料研究,第5号,pp.23-63,2009年3月
http://himoji.kanagawa-u.ac.jp/publication/pdf/annual_report_05/report_05_005.pdf
3) 田中傑(2011)、関東大震災後の寺院の経営と再建、関東都市学会年報 第13号、pp.79-93、2011年10月
http://researchmap.jp/?action=cv_download_main&upload_id=78568

備考:本資料に掲載したスキャン画像の原本はいずれも刊行以来50年以上が経過した団体発行物であり、その全て筆者が所有しているため、著作権の侵害はないと認識している。