両シナリオの調整

両シナリオの調整(生活再建の視点から見た市街地復興シナリオの検証)の段階では、市街地復興シナリオの中で世帯の生活再建が実現されうるかという視点での検証を行います。

生活再建シナリオと市街地復興シナリオの統合

復興シナリオの収集

復興シナリオの収集
前段階では市街地復興シナリオを、「整備の手法・進め方」と「空間要素」に分類して整理しました。
つづいて、この各項目に関係する個々の生活再建シナリオを選び、表にまとめて模造紙に整理することで両者を結び付けます。一般的に、行政側のひとつの要素に対して複数の世帯のシナリオが関係する状態になります。

バランスの検討

バランスの検討

ついで、各生活再建シナリオから抽出された「考慮すべき点」や「必要な支援策」をふまえた上でグループ全員で議論を行い、市街地復興シナリオを選定・修正し統合していきます。前章で参加者ごとに作成していた将来ビジョンやシナリオがこの段階でグループ案として1つに収斂されるようにします。ただし市民側の不確定要素が多い等の理由で1つに収斂出来ない場合は2つ以上も可とします。

こうして収斂させた市街地復興シナリオをあらためて、将来ビジョン・整備の手法進め方・空間要素別のシナリオ、の項目に整理して実施案として図面や模造紙に表現します。

さらにその上で、
をグループ内議論で再検討して表(模造紙)に整理し、復興シナリオのグループ案とします。
質疑応答
最後に全体発表およびグループ間・主催者と参加者間の質疑応答を行い、記録として整備するまでが一回の復興イメージトレーニング・ワークショップの流れとなります。

検討結果の事例

過去の復興イメージトレーニングにおいては、この「生活再建シナリオ」と「市街地復興シナリオ」の調整というステージで、これまでの災害対策では見えてこなかった課題や問題点が明らかになってくることが確認できました。復興イメージトレーニングはこうした問題への対策や計画のための基礎手段として位置づけることが出来ます。以下、これまでのワークショップでの検討結果事例を紹介します。

旧街道沿いの中心市街地の事例

旧街道沿いの中心市街地の事例
  • 「都市計画道路の事業化決定・事業スピード」と「沿道の住宅・店舗の早期再建」とのバランス
  • 「旧街道のまちなみ景観の形成」と「沿道の住宅・店舗の早期再建」とのバランス
  • 「駅前再開発事業による高層集合住宅の建設」と「土地を売却して近隣の集合住宅に転居したい住民」のマッチング
  • 「土地区画整理事業等による接道不良宅地解消の実現可能性・事業スピード」と「接道不良宅地の住宅再建(建替え、改修)あるいは土地売却」とのバランス
  • 「共同化による集合住宅の建設」と「土地を売却あるいは交換して近隣の集合住宅に転居したい住民」のマッチング

ミニ戸建て住宅集積地区の事例

ミニ戸建て住宅集積地区の事例
  • 敷地が狭小の戸建て住宅が集積する地区では、生活の利便性だけの理由で居住地を選択している住民が多く、震災を契機に住み替えが発生し人口流出が進む可能性があるとの指摘がみられた。
    →「隣地を買い取って敷地規模を拡大したい」という住民と「被災を契機に土地を売却して、利便性の高い場所に転居したい」という住民のニーズをマッチングするシステム(制度)の構築が極めて重要。
  • 「共同化による集合住宅の建設」と「土地を売却あるいは交換して近隣の集合住宅に転居したい住民」のマッチングも重要。

重点密集市街地の事例

重点密集市街地の事例
  • 「広幅員道路や主要生活道路の整備のスピード」と「沿道の住宅・店舗の早期再建」とのバランス
  • 「事業等による接道不良宅地解消の実現可能性・事業スピード」と「接道不良宅地の住宅再建(建替え、改修)あるいは土地売却」とのバランス
  • 大規模消失エリアや地区内の空地を「仮設住宅用地として利用するニーズ」と「公営住宅用地を早期に建設する場所として利用するニーズ」のバランス
  • 「共同化による店舗併用集合住宅の建設」と「自営業者の店舗および住宅の早期再建」のバランス
  • 「共同化による店舗併用集合住宅の建設」と「土地を売却あるいは交換して近隣の集合住宅に転居したい住民」のマッチング
  • 「低層・中層主体のまちなみの形成」と「共同化などによる高層マンション建設」のバランス
  • 「隣地を買い取って敷地規模を拡大したい住民」と「土地を売却して転居したい」住民のマッチング

郊外の良好戸建て住宅地の事例

郊外の良好戸建て住宅地の事例
  • 居住者に高齢者世帯が多いが、住宅が被災した際に、その再建資金の調達が困難となるケースが多くなる。通勤に不便なため子世帯との二世帯住宅による再建も難しく、資金不足を補うために、「敷地の一部を売却して資金を確保し、残った土地に住宅を再建して居住継続する」という生活再建のニーズが生じる可能性が高い。そのため、「敷地分割による住環境の悪化を防ぐ」という市街地復興の目標とのバランスを図ることが重要な課題。
  • 土地を売却する場合でも、駅から遠いといった立地条件から、不利な金額でしか土地の売却ができないといった問題、地区内の高齢居住者が震災を機に利便性の高い駅周辺地区のマンションなどに移転して、地区の空洞化がさらに進むという懸念も指摘された。

生活再建シナリオは人の特性によって選択肢の数が異なってきますが、阪神大震災でも見られたように、都市計画事業等を含めた政策的な復興計画はこの選択肢を減らし行政と個人との軋轢を生じさせる可能性があります。

復興イメージトレーニングは、その軋轢の原因となる時間的・空間的・社会的な課題を事前に拾い上げ、復興期に直面する問題の数を減らし、より良くより早く対処を行う可能性を高める準備 ― つまり災害・復興のリスクマネジメントとしても重要な手段と位置づけられます。