生活再建シナリオ

生活再建シナリオの検討は、個別のシナリオの検討とグループごとの蓄積とで構成されます。

個別のシナリオの検討

個別の生活再建シナリオの検討段階では、事前に設定した「被災世帯主」の役が参加者ひとりひとりに割り当てられます。参加者は自分が担当する被災者の立場になりきって、被災後どのように行動するかを考え記述していきます。

参加者は各自で、職業・世帯構成・家計状況・建物被害・敷地条件・親族の状況・居住歴などの設定をふまえた意思決定を行います。

参考資料として既存の生活再建支援策の一覧と概要を配布します。

その上で、当事者が取るであろう行動を
  • 生活再建のシナリオと住宅再建または移転に至るプロセス
  • そのシナリオを想定した理由
  • そのシナリオが成立するための条件
の項目で整理し、カードにまとめます。

このうち、「3.シナリオが成立する条件」は生活再建に関する支援ニーズとして読み取ることを期待しています。

シナリオの蓄積

生活再建シナリオの蓄積段階では、グループ内で参加者がシナリオカードを発表し、多様なシナリオをグループ全員で共有します。
シナリオの蓄積
模造紙に各参加者の生活再建シナリオを整理し、本格復興期の各世帯の状況、生活再建シナリオの実現のために考慮すべき点(条件)、必要となる支援策を合わせてリストアップし「とりまとめシート」を作成します。
シナリオの蓄積
取りまとめシート(生活再建シナリオ)の例
生活再建シナリオの記述過程では、一般的に、被災後の住居の確保を最優先とした上で、現地での家屋再建だけでなく他地域への転居を含めた現実的な選択が検討されます。設定した被災世帯の条件の困難さによって選択肢の数が異なってくることが取りまとめ段階で見えてきます。

生活再建シナリオの分析

ワークショップ中にはこの「分析」の段階は行いませんが、開催後に生活再建シナリオの構造を分析することで復興時の市民のニーズがより明確に把握でき、また次回以降の開催時により妥当なモデル世帯設定を行うことが可能となります。

ここでは研究チームおよび主催者・参加者によって分析を行った結果を紹介します。

生活再建シナリオの検討を行うと、設定した世帯属性によって多種多様なシナリオや、考慮すべき点・生活再建支援策のニーズが抽出されてくることが分かります。
右はそうした検討結果の一例です。
このように多様なシナリオはどのような条件の影響を受け規定されるのか、過去の復興イメトレでの結果をもとに分析が行われ説明変数として分類・蓄積されています。

生活再建シナリオに影響する要素の分類

A 市街地属性

市街地類型 中心市街地、ミニ戸建て集積地区、木造住宅密集地区、郊外の良好住宅地等
立地 今後の開発ポテンシャル、或いは、土地売却の容易性と解釈できる要素で、駅からの距離や住環境水準が関係する
市街地全体の被災程度 全体被害率(全壊率、延焼被害の広がり等)

B 個人属性(社会的)

年齢・世帯構成 高齢者のみ世帯、高齢者世帯、世帯主の年齢、子供の年齢
職業 自営業者、会社員、年金生活者
経済状況(ストック) 貯蓄
経済状況(フロー) 震災による収入源の影響の大きさに反映する
借入余力 銀行から新たに住宅再建資金を借り入れられるかどうかを表す。世帯構成と年齢に規定される
親族との同居の可能性 子供世帯、親世帯との同居の可能性。親族世帯の被災程度や建物床面積、折り合いの良さ等、多様な要因が影響する。
地域へのこだわり 現地での住宅再建に執着する度合いを表す

B 個人属性(物的)

建物の被災状況 住宅再建の必要性を表す
敷地条件 不接道、狭小敷地等の再建の障害を表す

C 近隣地域の状況

隣接敷地の購入可能性 土地売却しようとしたときに速やかに生活再建が可能な額で売却できるかどうかの可能性
周辺の居住者人口 周辺居住者を顧客にする自営業者の営業存続に影響する。また、居住人口の変化は、近隣の居住者の意思決定の結果であり、他者の意思決定が影響される可能性がある。
都市計画事業の有無 都市計画事業により、土地買収、或いは、権利変換の可能性があるかどうかを表す
公的住宅の供給 公営住宅の建設とそこへの入居のしやすさ
影響する要因(説明変数)は、立地などの市街地属性、家計などの個人属性、都市計画事業など近隣地域の状況、の3つに大きく分けられます。

一方で生活再建時の意思決定もまた、現地再建、移転再建、借家への移転、の3つに大きく分けられます。

説明変数が意思決定を介してシナリオの選択に至る関係性を記述することで生活再建シナリオの構造を把握することができます。
現在までに、下図のような構造が明らかになっています。

この構造から主要な要素を抽出し簡略化すると下図のようなフローチャートを導くことができます。

つまり「置かれた立場によって選べる選択肢の数が異なってしまう」という構図が生じていることが分かり、どのような外部条件が選択肢を減らす方向に働いているかが見えてきます。

このように生活再建シナリオを分析することで、普段から市民の「選択肢の数」を増やす方向の対策を取り、復興事業によって「選択肢の数」を減らさないような注意を払うことが復興準備の政策目標のひとつであると確認されてきました。

また逆に、ワークショップの世帯設定時に上記の分析結果を反映させ、より選択肢の少なくなるような条件設定を交えて行うことで「復興弱者」の置かれた状況が再現でき、参加者・行政職員が災害復興時の課題を発見しやすくなるといえます。